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札幌高等裁判所 昭和50年(行ス)2号 決定 1976年10月27日

抗告人(原審相手方)

帯広市

右代表者帯広市長

田本憲吾

右訴訟代理人

橘精三

外二名

被抗告人(原審申立人)

学校法人 白樺学園

右代表者理事長

長原林造

被抗告人(原審申立人)

長原林造

右両名訴訟代理人

尾山宏

外一名

主文

一  原決定を取消す。

二  被抗告人らの本件執行停止の申立をいずれも却下する。

三  手続費用は、第一、二審を通じて抗告人と被抗告人学校法人白樺学園との間に生じたものは、同被抗告人の負担とし、抗告人と被抗告人長原林造との間に生じたものは同被抗告人の負担とする。

理由

第一抗告人は、「主文第一、二項同旨及び手続費用は全部被抗告人らの負担とする。」との裁判を求めたが、その理由は、別紙一に記載のとおりである。

被抗告人らは、「本件抗告を棄却する。」との裁判を求めたが、その理由は、別紙二記載のとおりである。

なお、被抗告人学校法人白樺学園(以下、単に「被抗告人白樺学園」という)は、当審において、本件執行停止(効力停止)の申立中、抗告人が昭和四五年九月二六日に被抗告人白樺学園に対してなした原決定別紙(二)記載の換地処分のうち、同別紙(二)に記載の帯広市西一六条南三丁目一番地五宅地六〇〇坪を従前の土地とする換地処分の執行停止(効力停止)申立を取下げた。また、原審相申立人長原信一は、当審において、本件執行停止(効力停止)申立を取下げた。

従つて、当審において被抗告人らの本件執行停止(効力停止)申立の対象となつている換地処分は、被抗告人白樺学園宛になされた原決定別紙(二)に記載されている換地処分のうち従前の土地を帯広市西一六条南三丁目一番の二、同所二番の一、同所二番の二、同所三番の一、同所八番の四とする各換地処分及び被抗告人長原林造宛になされた原決定別紙(三)記載の従前の土地を同所一番の四とする換地処分のみである(以下、右各換地処分を一括して「本件換地処分」と呼称し、本件換地処分において従前の土地とされた土地を「本件従前の土地」と呼称し、これを個別的には例えば「一番の二の土地」の如く地番と枝番のみをもつて呼称する)。

第二当裁判所の判断

一本件執行停止(効力停止)申立の本案である釧路地方裁判所昭和四五年(行ウ)第一三号換地処分取消請求事件の記録によれば、被抗告人白樺学園、同長原林造及び原審相申立人長原信一の三名(以下、右三名を「被抗告人ら三名」と呼称する)は、共同原告となつて抗告人を被告として、昭和四五年一一月一七日釧路地方裁判所に対して、抗告人が昭和四五年九月二六日に被抗告人ら三名に対してなした原決定別紙(二)、(三)、(四)、(五)に記載の各換地処分をいずれも取消す旨の判決を求める訴を提起したこと、その後昭和四八年五月六日被抗告人ら三名は右本案訴訟において、抗告人が昭和四五年九月二六日に抗告人ら三名に対してなした原決定別紙(二)、(三)、(四)、(五)に記載の各換地処分及び各保留地指定処分を取消す旨の判決を求めて訴を追加的に変更したこと、右本案訴訟は目下釧路地方裁判所に係属中であることがそれぞれ認められる。

二被抗告人らは、本件換地処分に因つて被抗告人らが回復の困難な損害を被る虞があり、右損害を避けるため本件換地処分の効力を停止すべき緊急の必要がある旨主張する。よつて案ずるに、

(一)  行政事件訴訟法第二五条第二項にいう「処分……により生ずる回復の困難な損害」とは、先ず当該処分と相当因果関係のある損害をいうものであるが、右「回復の困難な損害」とは、本案請求認容判決確定の時点において、原状回復が不能ないし困難なものであつて、且つ社会通念上原状回復に代わる金銭賠償をもつてこれを処分を受けた者に受忍させるのが相当ではないものをいうものと解するを相当とする。そうだとすると、原状回復自体は不能ないし困難な損害であつても、それが軽微であるとかその他の事情により、社会通念上処分を受けた者が原状回復に代る金銭賠償をもつて該損害を受忍すべきものとみるを相当とするような場合には、右「回復の因難な損害」にはあたらないことになる。以下、この見地に立つて被抗告人らの前示主張の当否について考察することにする。

(二)  先ず、前記主張判断の前提となるべき事実関係についてみるに、疎明資料及び当事者双方を審尋した結果によれば、次の1ないし10のとおりに一応認められる。

1 被抗告人白樺学園は、私立学校法に基づき昭和三二年設立された学校法人であつて、同三三年帯広市西一六条南三丁目所在の原決定別紙(二)ないし(五)に従前の土地ないし(旧)土地として記載されている一団の土地約五万七五八三平方メートルを校地として普通科・商業科の高等学校である白樺学園高等学校(現在収容定員は九〇〇名であるが、昭和五〇年五月現在における生徒数は四八六名である。以下、単に「白樺学園」という)を設置開校し、原決定別紙(二)の従前の土地欄に記載されている各土地即ち本件換地処分における従前の土地である一番の二の土地、二番の一の土地、二番の二の土地、三番の一の土地、八番の四の土地ほか一筆の土地を所有し、これを白樺学園の旧校地に供してきた。被抗告人長原林造は、被抗告人白樺学園の創立者であり、その創立以来同被抗告人の理事長であつて、原決定別紙(三)の従前の土地欄記載の土地即ち本件換地処分における従前の土地である一番の四の土地を所有し、これを被抗告人白樺学園に校地として貸与してきた。なお、原審相申立人長原信一は、原決定別紙(四)の従前の土地欄記載の土地及び同別紙(五)に(旧)土地として記載の土地(但しこの所有名義人は訴外中村慶七)を所有しこれを被抗告人白樺学園に校地として貸与してきた(以下、白樺学園の校地を構成していた前記土地を一括して「旧校地」と呼称する)。白樺学園の旧校地内には、その北側に木造本校舎、体育館、武道館等の校舎群、その中央部から南部にかけてグランド、その西側に一六条通りに面して職員用住宅(一棟)及び車庫(二棟)、その南東端に学生寮がそれぞれ配置されていたが、本件従前の土地である一番の四の土地、一番の二の土地、八番の四の土地、二番の一の土地、二番の二の土地及び三番の一の土地の計六筆の土地は、いずれも旧校地のうちの北部に位置し、その北辺はいずれも白樺通りに面していて右記載の順に西から東に連らなり、これを全体としてみると、東西に通ずる白樺通りに沿つた東西約二六〇メートル、南北約二五ないし六五メートルの横長の土地となつており、前記校舎群の位置は、右土地の南の部分にあたる。右土地のうち右校舎群から白樺通りに至る間の土地上には、白樺通りに向つて中央に正門があり、これと正面玄関との間の前庭には噴水施設があり、右正門から東と西にそれぞれ約四〇メートル隔てて校門が一個づつあり、右の東側校門附近には自転車置場(二棟)があり、また右土地の東端には、食堂があつた。そして白樺通りに沿つた東西約二六〇メートル、南北約一〇メートル地帯(但し、右各校門附近を除く。)には相当多数の白樺及び雑木、灌木が生えていた。

2 抗告人は、帯広市都市計画所定の土地区画整理事業の一環として、昭和三九年頃、帯広市西一六条南三丁目の全域及び西一六条南四丁目の一部36.6ヘクタールを施行区域として、帯広都市計画西第一北土地区画整理事業計画(以下、これによる事業を「本件土地区画整理事業」という)を定めた。右施行区域は北は白樺通りの中心線までであり、白樺学園の旧校地はすべて右施行区域内に含まれることになつた。右土地区画整理事業の目的は、「本区域内には白樺学園が設立されているほか、附近には、小中学校、公営住宅等が設置され、最近本区域内にも、公営、一般住宅の建設が激増し、市街化しつつあるが、区域内の公共施設は整備されないままなので、右事業の施行により宅地の利用の増進と公共施設の整備改善を図る。」ことに在るとされ、右事業計画の具体的な内容については、若干の変遷はあつたが、最終的に、それには、市道であつた白樺通り(歩車道の区別がなく、幅員約14.5メートル、以下、この状態の白樺通りをいう場合「旧白樺通り」と呼称する)の拡幅用地として、右土地区画整理区域内に、その北限線即ち旧白樺通り中心線から南へ一五メートル幅の土地(旧白樺通りの南側道路敷部分を含む)を確保することが含まれることになつた。抗告人は、本件土地区画整理事業による右用地確保及び帯広市都市計画に基づくその他の土地区画整理事業やその他の方法による白樺通り拡幅用地の確保を見込んで、その頃、帯広市都市計画における都市計画街路である白樺通り(道路番号三・二・五)の拡幅工事(南四条西一四丁目八番地々先から西二五条南二丁目一八番地々先までを幅員二五〜三〇メートルに拡幅することを内容とする)のための街路事業計画を別途に決定した。

3 抗告人は、昭和四〇年三月二九日本件土地区画整理事業の事業計画につき北海道知事の認可を受け、土地区画整理法所定の手続を経てこれを施行することになり、昭和四一年六月四日被抗告人白樺学園に対し、その所有の原決定別紙(二)に従前の土地として記載されている土地につき、被抗告人長原林造に対し、その所有の原決定別紙(三)に従前の土地として記載されている土地につき、それぞれ仮換地指定をし、同年七月一日原審相申立人長原信一に対し、その所有の原決定別紙(四)に従前の土地として記載してある土地につき、仮換地指定をし、同日原決定別紙(五)に(旧)土地として記載されている土地の所有名義人である前記中村慶七に対し右土地についての仮換地指定をした。以上の仮換地指定にかかる仮換地の全体としての位置、範囲は、原決定別紙(六)の略図において斜線を施した部分(但し①の部分の幅員8.2メートルは7.7メートルに改める)に囲まれた部分であつた(以下、右仮換地の全体を「旧校地の仮換地」という)。右仮換地指定における本件従前の土地六筆の各仮換地について言えば、それぞれの位置は、大体において本件従前の土地と同じ場所であつて、謂わば原地仮換地であり、これを全体としてみると、旧校地の仮換地のうちの北側部分を占める横長の土地であつて、その北限線は、全体としての本件従前の土地の北限線よりも約7.7メートル南方に寄つていた(以下、白樺学園の旧校地と白樺通りとの接線である東西約二六〇メートルに亘る本件従前の土地の北限線から、南方へ奥行き7.7メートルをとつた帯状の旧校地部分(面積約二〇〇二平方メートル)を「本件係争地帯」と呼称することにする。原決定別紙(六)の略図で言えば、本件係争地帯はの各点を順次に結ぶ直線(但し間及び間はいずれも約7.7メートルとする)で囲まれた部分にあたることになる。)。

なお、抗告人は、本件土地区画整理事業のため定めた換地計画において原決定別紙(六)の略図において「保留地」と記載されている土地部分(面積は約1349.12平方メートル、該土地部分の所有者は原審相申立人長原信一であつた)を保留地として指定したが、該土地部分は、校地とは言つても従来自動車の練習場などとして使用されていたこともあり、白樺学園の学園用地として必須の土地としては必ずしも使用されていなかつた。しかし被抗告人らは白樺学園の旧校地の一部がこのように保留地として指定されたことにつき、抗告人が旧校地の学校用地としての特殊性を充分に考慮しないものとして強い不満を持つた。

4 被抗告人ら三名は、昭和四一年一〇月二六日抗告人を被告として釧路地方裁判所に対し前記各仮換地指定処分の無効確認の訴を提起したが、その後昭和四三年一一月一九日に右訴を取下げた。

ところで前記仮換地指定処分の結果、前記学生寮の大部分や本件係争地帯に在つた前記各校門や自転車置場や前記食堂の一部などが旧校地の仮換地からはみ出すことになつた。そこで抗告人は土地区画整理法第七七条二項、三項に基づき被抗告人白樺学園に対して、先ず昭和四三年一〇月二四日、期限を昭和四四年一月三一日と定めて右学生寮の建物の移転除却の通知及び自己移転除却の照会をした。しかし前記仮換地指定処分を不服とする被抗告人白樺学園は自らはこれを実施しない旨を表明したので抗告人は同法同条六項により抗告人が右建物の移転をなすことにし、右建物に入居していた寮生に対しても昭和四四年八月一日に期限を同年一一月六日と定めて右建物の移転、除却の際に右建物から立退くよう通知した。しかし抗告人が右建物の曳去移転を実施するにあたつて被抗告人白樺学園や右寮生による妨害行為のなされることが予想され、それによつて本件土地区画整理事業の完結が遅れる虞があつたので、抗告人は被抗告人白樺学園及び右寮生らを債務者として釧路地方裁判所帯広支部に対して仮処分の申請をした。そして右申請による同庁同支部昭和四五年(ヨ)第三二号事件において昭和四五年四月一〇日午前一一時の期日に右事件当事者間に裁判上の和解が成立した。抗告人と被抗告人白樺学園との間に成立した右裁判上の和解は、「抗告人は被抗告人白樺学園に対し、前記学生寮に対する強制処分を昭和四五年五月一五日まで延期する。抗告人は右期限に至るまで被抗告人白樺学園と本件紛争に関して積極的に協議する。被抗告人白樺学園は、昭和四五年五月一五日の右期限を経過したときは、即時任意に学生寮を抗告人の指示に従つて移転する。抗告人は被抗告人白樺学園が学生寮の移転を完了したときは、右移転等に伴う補償費を支払う。被抗告人白樺学園は、昭和四五年五月一五日の前記期限を経過したときは抗告人において学生寮を強制的に移転することを受忍する。抗告人は被抗告人白樺学園に対し前項のほか学生寮に関し行政上の強制措置をしない。」という内容のものであつた。そこで抗告人と被抗告人白樺学園とは、右裁判上の和解の趣旨に則り昭和四五年五月一五日まで、前記仮換地指定処分によつて両者間に生じた紛争を解決するための協議を重ねたが、結局合意を見るに至らず、被抗告人白樺学園による前記学生寮の任意履行は期待できなかつたので、抗告人はついに昭和四五年五月二六日付書面をもつて、被抗告人白樺学園に対し、前記学生寮のほか前示の各校門の門柱、自転車置場、樹木等の移転を同年五月二七日に抗告人が直接実施する旨通知したうえ、右通知のとおりに強制処分に臨んだ。そこで被抗告人白樺学園は、折れて、昭和四五年五月三〇日に抗告人に対し、「学生寮一棟及び付属物件、北側工作物一式、樹木一式等につき、施行者において、移転並びに除却を直接施行していただきたく、お願いいたします。」と記載した書面を差し入れたので、同日抗告人と被抗告人白樺学園との間で、書面によつて、樹木移植伐採工事は双方立会確認したとおりとすること、白樺通りの街路築造は、街路事業施行の時点まで行わないこと、但し築造の必要が生じた場合には双方協議すること、保留地については白樺学園関係者に優先的に売払すること、学生寮は東西の区画街路から五メートル、南北の区画街結から一〇メートル離れた場所に移転すること、食堂の突出部分は、被抗告人白樺学園の方でこれを除去すること、騒音問題等については、将来発生の段階で双方協議すること等について合意した。そこで抗告人は、昭和四五年六月九日頃までに平穏裡に、本件係争地帯に在つた前示の校門三個の門柱や噴水施設や自転車置場(二棟)を本件従前の土地の仮換地内に移転、移築した。また本件係争地帯に在つた樹木のうち、被抗告人白樺学園が移植を希望したかなりの本数の白樺等の樹木についてもこれを数メートル南側の右仮換地内に移植したので(もつとも本件係争地帯にはなお雑木、灌木等がかなりの本数残された)、右仮換地上には、旧白樺通り寄りにこれと平行して東西約二六〇メートル、南北約一〇メートルにわたり(但し校門等の附近を除く。)、白樺等が林立するようになつた。被抗告人白樺学園もその頃食堂のうち右仮換地内より東方に突出することになつた部分を除去した。抗告人はその後、前記学生寮を前記合意のとおりに移転した。

5 抗告人は、本件土地区画整理事業について定めた換地計画を昭和四五年七月一三日から同年同月二六日まで法定の手続に従つて公衆の縦覧に供したうえ、昭和四五年九月一四日右換地計画について北海道知事の認可を受けた。そして抗告人は、同年九月二六日、被抗告人白樺学園に対し、その所有の原決定別紙(二)に従前の土地として記載されている各土地(本件従前の土地のうちの一番の二の土地、二番の一の土地、二番の二の土地、三番の一の土地、八番の四の土地を含む)につき右別紙(二)の換地処分後の土地欄記載の各土地をそれぞれ換地とする換地処分を、被抗告人長原林造に対し、その所有の原決定別紙(三)に従前の土地として記載されている土地即ち本件従前の土地のうちの一番の四の土地につき、右別紙(三)の換地処分後の土地欄記載の土地を換地とする換地処分を、原審相申立人長原信一に対し、その所有の原決定別紙(四)に従前の土地として記載されている各土地につき、右別紙(四)の換地処分後の土地欄記載の各土地をそれぞれ換地とする換地処分を、前記中村慶七に対し、その所有名義の原決定別紙(五)に(旧)土地として記載の各土地につき、右別紙(五)に(新)土地として記載の各土地をそれぞれ換地とする換地処分をそれぞれ行い、同年一〇月二七日これら換地処分を公告した。右各換地処分による各換地の位置、範囲は、前記各仮換地指定処分による仮換地のそれと全く同じであつて、大体において所謂原地換地である。従つて全体としてみた右換地の位置、範囲は旧校地を構成していた前記従前の土地の仮換地のそれと同じであり(以下、右換地を全体として「旧校地の換地」と略称する)、また全体としてみた本件従前の土地の換地の位置、範囲も亦本件従前の土地の仮換地のそれと同じであつた。本件従前の土地六筆の各一部から成つた本件係争地帯は、前記換地計画において、旧白樺通りの拡幅の用に供されるべき道路用地とされていたので、旧校地の換地の一部としての本件従前の土地の換地から外された。それで被抗告人らの本件係争地帯についての所有権は、土地区画整理法第一〇四条一項の規定により前記換地処分の公告のなされた日である昭和四五年一〇月二七日の終了した時に消滅し、本件係争地帯は同法第一〇五条三項の規定により、右公告の日の翌日である同年同月二八日に本件土地区画整理事業の施行者である抗告人の所有に帰した。白樺学園の旧校地の総面積が約五万七五八三平方メートルであつたことは前述のとおりであるが、旧校地の換地の総面積は約四万八二九五平方メートルとなつたので、前記換地処分により白樺学園の校地面積は約一六パーセント減少した。もつとも本件換地処分に限つて言えば、本件従前の土地は、全体として1万4518.98平方メートルであつたのに対し、その換地は全体として1万4646.87平方メートルであつて、後者が前者よりも127.89平方メートルだけ増加していることになる。

6 その後、白樺通り沿道の市街化及び工業地域化が次第に進むにつれて、これに伴う交通量の増大に備え前記の白樺通りの拡幅工事のための都市計画街路事業計画に基づく都市計画街路事業の施行が望まれるような情勢になつたが、抗告人は財政上の理由から右事業を施行することが困難であつた。他方、北海道は、旧白樺通り(但し一五条通り以東の部分を除く)をはさんだ東は帯広駅南口から、西は芽室までの道路を道道芽室東四条帯広線として路線の認定をし、昭和四六年三月三一日これを公示した。それで右道路は北海道が管理することになつたので、北海道は都市計画法第五九条二項により昭和四七年八月九日建設大臣の認可を受けて抗告人の前記の白樺通り拡幅工事のための都市計画街路事業計画に基づく都市計画街路事業を施行することになつた。右都市計画街路事業計画によれば、車道、歩道の区別なく、幅員約14.5メートルの旧白樺通りは、幅員三〇メートルに整備、拡幅されて、中央分離帯(幅員三メートル)をはさみ、その両側にそれぞれ車道(三メートル幅の走行車線二車線とその外側の1.25メートル幅の駐停車用路肩よりなり全幅員7.25メートル)、その外側に自転車道、その外側に歩道(両者の間に分離帯が断続的に設けられるが両者を通じての幅員は6.25メートル)が設けられ、そのいずれもが基礎工事を施された上にアスフアルトコンクリート舗装が施される(右基礎工事部分とコンクリート舗装部分の厚さは、車道で九〇センチメートル、自転車道及び歩道で三〇センチメートル)ことになつており、白樺学園の旧校地に沿つていた旧白樺通りの中心線の南側について言えば、旧白樺通りの南側部分と本件係争地帯とを道路敷地として右整備拡幅工事がなされることになつており、これがなされると、白樺通り南側車道の南側走行車線の南限線は約0.20メートル、右南側車道の南限線は、約1.45メートル、歩道南限線は、約7.7メートルだけ、それぞれ旧白樺通りの南限線より南に(白樺学園の校舎寄りに)在ることになり、右歩道の南限線と白樺学園の前記校舎群(食堂を除く)との間隔は、木造本校舎についていえばその一部で約九メートルとなるところもあるが、その大部分については、約三一メートルとなり、前記歩道南限線と前記体育館、武道館との間隔は、それよりも若干少ないものとなる。北海道は、その帯広土木現業所を施行機関として、昭和四八年度から右街路事業を施行し、昭和五〇年度までに、一五条通りと一七条通りにはさまれた東西1.1キロメートルの区間の白樺通りの整備拡幅工事を、白樺学園旧校地北側に沿つた前示約二六〇メートルの区間の南側の部分を除いて完成し、これを一般の通行の用に供している。なお、北海道は、道道としての芽室東四条帯広線のうち、一五条通りの部分及び新緑通りの部分(いずれも白樺通りではない)は、終点の帯広駅南口に至るまで既に街路事業を施行して工事を了しており(但し幅員は二〇メートル)、一七条通りとの交差点以西(白樺通りを含む)は、昭和五一年度から昭和五五年度にかけて整備、拡幅していくことにしている(但し幅員は栄通りとの交差点まで三〇メートル、その以西は二五メートル)。自樺通りのうち、一五条通りとの交差点以東の部分は、なお市道のままであるが、抗告人は、該部分を土地区画整理事業によつて幅員三〇メートルないし二五メートルに拡幅しようとしている。しかしこれについては付近住民の中に反対者が少なくなく、近い将来に右拡幅工事をなし得るかは予測できない情勢に在る。

7 他方、抗告人は、水質公害防止、都市環境整備及び公共用水域の保全という見地から、帯広圏都市計画下水道事業の事業計画を決定し、その一環として昭和四七年度から十勝川公共下水道事業(処理面積766.9ヘクタール、処理人口三万六〇〇〇人)を施行し、十勝川終末処理場の建築に着工するとともに、昭和五二年度の供用開始にむけて下水道管渠設置の工事を施行してきた。右事業計画によれば、十勝川汚水一号幹線の下水道管は白樺通りの南側歩道の地下約八メートルのところに埋設されることになつており、右下水道管埋設工事の施工時期については、道道としての白樺通りの管理者である北海道が道路占用の許可をなすにつき、自ら施行する前示の白樺通りの整備拡幅工事に先行して右下水道管埋設工事を施行するように条件を付けているので、前記の白樺通り拡幅工事が施行される前に、抗告人としては右下水道管埋設工事をしてしまわなければならない事情にある。しかし、白樺通りのうち白樺学園校舎地沿いの約二六〇メートルの区間における右下水道管の埋設は、諸種の事情から本件係争地帯内の地下にこれをすることに計画されており、本件係争地帯は、前叙のとおり本件土地区画整理事業において、本件換地処分を前提として抗告人の所有に帰した土地である関係上、本件換地処分の効力が停止されれば抗告人としては本件係争地帯内に前記下水道管を埋設することはできないことになる。

8 被抗告人白樺学園は、前述のようにして、昭和四八年度から白樺通りを拡幅整備する街路事業が実施される運びとなつたので、抗告人に対して、白樺通りの拡幅がなされることによつて同被抗告人は白樺学園の運営上種々の支障が生ずる旨訴え、自動車騒音対策として校舎の二重窓化や防音塀の設置、換地処分によつて失う旧校地の代替地の提供、補償等を具体的に要求して抗告人と折衝した。しかし抗告人から満足できるような回答を得ることはできなかつた。

9 北海道は、抗告人が被抗告人白樺学園との間に昭和四五年五月三〇日になした前記の合意の趣旨を考慮して前記街路事業として白樺学園校地沿いの白樺通り南側の拡幅工事を施行するのをしばらく控えてきた。しかし昭和五〇年五月に至り附近住民から帯広市議会に対し、白樺通り拡幅工事早期完成の請願がなされた。そこで北海道と抗告人は協議の結果、道道白樺通りの拡幅工事並びに抗告人の前記下水道工事については地域住民の強い要望と最近の人口増加に伴う生活環境保全保護並びに交通安全対策等の見地から現況のままで推移することは市民生活上重大な影響があるとして、白樺学園校地沿いの白樺通りにおける右各工事に着手することを決意し、同年九月三日抗告人の市長自ら白樺学園に赴き、被抗告人らに右決意を伝えて全面協力を懇請した。しかし被抗告人ら三名は、同年同月一五日本件執行停止の申立をなし、原裁判所が同年一〇月三日右申立を認容して原決定を発したので北海道は白樺学園校地沿いの白樺通り南側拡幅工事を施行できずにおり、また抗告人は、同所白樺通りに前記下水道管を設置する工事を施行することができずにいる。付近住民の圧倒的多数の者は、同所の右各工事の早期施行を強く望んでいる。

10 北海道は、若し帯広市が本案訴訟で敗訴してその判決が確定したときは、本件係争地帯を白樺通り拡幅のため道路用地として、これを土地収用法によつて収用しようと考えている。

(三)  ところで本件換地処分に因り回復の困難な損害を被る虞がある旨の被抗告人らの前記主張は、具体的には、これを要約すると、「白樺学園の旧校地に沿つた白樺通りの前記東西約二六〇メートルに亘る区間の南側の拡幅工事がなされて本件係争地帯が道路になつてしまうと、後日、たとえ被抗告人ら勝訴の本案判決が確定しても、原状回復は困難である。右拡幅工事がなされると白樺通りの車輛交通量は増加して、騒音、震動、排気ガス等の激増をきたし、それに、これまで右騒音等の緩衝地帯をなしていた本件係争地帯の白樺等の樹木が除去されてしまうため、白樺学園は、右騒音等に直接さらされることになるし、また、通園の生徒らが交通事故に遭遇する危険性も高くなり、要するに学園として教育環境が破壊されてしまう。更に、本件換地処分に因り白樺学園の旧校地が相当大巾に縮減されるため被抗告人白樺学園が、かねてより構想している教育計画の実現が阻まれ破壊される。」というに在る。そこで抗告人らの右主張について検討してみる。

1 白樺学園の旧校地に沿つた白樺通りの前記東西約二六〇メートルに亘る区間の南側の拡幅工事が一旦なされてしまえば、右拡幅工事は前述のとおりコンクリート舗装の堅牢な道路工事が予定されているので、後日たとえ被抗告人らが本案訴訟で勝訴し、その判決が確定して本件係争地帯の所有権を確保することになつたとしても、右拡幅部分の道路を取毀わして原状回復することは、それが物理的には不可能ではないにせよ、著しく困難であることは明らかであり、社会通念上は不可能とみるのが相当である。

2(1) 被抗告人らは、白樺学園の旧校地に沿つた白樺通りの前記の東西約二六〇メートルに亘る区間の南側の拡幅工事がなされてしまうと、白樺通りの車輛交通が激増すると主張するのでこの点を考えてみる。疎明資料によれば、白樺通りの自動車類の交通量は、昭和五〇年二月現在で一二時間あたり六七〇〇台余であり、白樺通り拡幅工事事の施行前であつた昭和四六年当時と比較すると相当大巾に増加していることが認められるが、これには白樺通りの拡幅工事が前認定のように一部実施されたことが一つの重要な原因となつているものと考えられる。今後、右拡幅工事が一七条通りとの交差点以西の方に進められ、それが逐次完成していけば、それにつれて白樺通りの車輛交通量は、たとえ白樺学園旧校地沿いの前記東西約二六〇メートル区間の南側の拡幅工事がなされなくとも、益々増加していくものと思われる。しかし右の白樺通り車輛交通量の増加は、白樺学園校地沿いの前記の東西約二六〇メートル区間の南側の拡幅工事がなされることに因つて生ずるところの車輛交通量の増加でないことは明らかであり、従つてそれは本件係争地帯を抗告人の所有に帰せしめる前提となつた本件換地処分と因果関係のある車輛交通量の増加ということはできない。白樺学園校地沿いの前記の東西約二六〇メートルの区間の南側の拡幅工事がなされることに因つて白樺通りの車輛交通量が増加するか否かは、右区間の南側の拡幅工事がなされないことに因つて白樺通りの車輛交通量の増加が阻止されているか否かによつてこれを知りうるものというべきであるが、疎明資料によつて窺われる白樺通りの車輛通行の状況からすれば、現在白樺学園校地沿いの前記の東西約二六〇メートルの区間の南側の拡幅工事がなされていないことが白樺通りの車輛交通に及ぼしている影響は、右区間の東西の両端の付近において通行車輛の流れを或る程度阻害してはいるが、既に完成している右区間の北側が完全な二車線であるため車輛交通量そのものにはさしたる消長を生ぜしめてはいないものと一応認められ、将来白樺通りが一七条通りとの交差点以西において拡幅されていつたとしても、白樺学園旧校地沿いの前記東西約二六〇メートルの区間の南側の拡幅工事がなされていることは、白樺通りの車輛交通の流れに渋滞を生ぜしめることになる虞はあるが、それが果して白樺通りの車輛交通量そのものの増加を阻止する要因となるかは多分に疑問である。それゆえ、白樺学園校地沿いの前記の東西約二六〇メートル区間の南側の拡幅工事がなされることに因つて生ずる白樺通りの車輛交通量の増加、即ち本件換地処分と因果関係のある車輛交通量の増加は、仮令それがあるにせよ、さしたる量ではないものと推認せざるを得ず、それがいか程になるかについてはこれを認めるに足りる疎明資料はないと言わざるを得ない。

前叙のとおり、前記の約二六〇メートルに亘る区間の南側の拡幅工事がなされることに因つて生ずる白樺通りの車輛通行量の増加はさしたるものとは認め得ないのであるから、右車輛通行量の増加に因つて生ずる車輛騒音の増加も亦さしたるものと認め得ないことは当然であり、また疎明資料によれば、一般の市街地においては、道路から五〇メートル位までの範囲内では自動車騒音の及ぶ影響力は道路からの距離いかんによつて変わることは殆んどないものであることが認められるところ、白樺学園の校地に沿つた白樺通りの前記の東西約二六〇メートルに亘る区間の南側の拡幅工事がなされてそれが完成しても、既に認定のように、白樺通り南側車道の南限線は、歩車道の区別のない旧白樺通りの南限線よりも約1.45メートル(南側車道南側車線の南限線についてみれば、旧白樺通りの南限線の僅か0.20メートル)南方に寄ることになるだけなので、白樺学園校舎群との間隔――右拡幅工事がなされた場合のそれが、右校舎群の大部分の場所において約37.25メートル前後となることは前認定したところから明らかである――は僅かに縮少するだけであり、従つてそのことに因る白樺通り車輛騒音の白樺学園に及ぼす影響の増加は僅かなものと考えられる。

白樺学園の旧校地沿いの白樺通りの前記の東西約二六〇メートルに亘る区間の南側の拡幅工事がなされても、白樺通りと校舎との間には、前述のような経緯で旧校地の本件係争地帯から移植されたものを含めて相当数の白樺等が白樺通りに沿つて(但し校門付近を除く)植樹されたままに残り、この樹木帯が依然として白樺通りを通行する車輛による騒音の白樺学園に対する影響をかなり緩衝するものと考えられる。

以上のとおりなので、白樺学園校地沿いの白樺通りの前記の東西約二六〇メートルに亘る区間の南側の拡幅工事がなされることに因る白樺通り通行車輛による騒音の白樺学園に対する影響は、さして大きなものと認めることはできず、校舎内に及ぶそれは、校舎を敢えて南方に移動させることをしなくとも適当な防音塀を設置するとか或いは校舎北側の窓を二重窓をするとかの適宜の処置を講ずることによつてこれを消去し得る程度のものと考えられる。

念のために付言すれば、以上の説示は、あくまでも、本件換地処分と因果関係のある車輛騒音の増加、即ち白樺通りの前記の東西二六〇メートルの区間の南側において本件係争地帯に拡幅工事がなされることに因つて生ずる車輛騒音の増加が白樺学園にどんな影響を及ぼすかについて述べたものであつて、右区間の南側を含めて白樺通りが前記都市計画街路事業として予定の全域に亘つて前認定のとおりに拡幅されることに因つて生ずる車輛騒音の増加が白樺学園にどんな影響を及ぼすかについて述べたものではない。白樺通りの前記の東西約二六〇メートルの区間の南側の拡幅工事がなされることに因つて生ずる車輛騒音の増加が白樺学園に及ぼす影響は、右区間の南側を含めて白樺通りが前記都市計画街路事業として予定の全域に亘つて拡幅工事がなされることに因つて生ずる車輛騒音の増加が白樺学園に及ぼす影響の一部にすぎないことは明白であり、後者のすべてが本件換地処分と因果関係に立つものではない。

(2) 前認定のような事実関係によれば、白樺学園旧校地沿いの白樺通りの前記の東西約二六〇メートルの区間の南側拡幅工事がなされることに因る白樺通り通行車輛による震動の増加ないし右拡幅工事完成により白樺通り車道と白樺学園校舎群との間隔の縮少に因る白樺学園に対する右震動の影響の増加がさほどに大きいものとは到底認め難い。

(3) 白樺学園旧校地沿いの白樺通りの前記の東西約二六〇メートル区間の南側拡幅工事がなされることに因る白樺通り通行輛車の排気ガスの影響についてい言えば、右区間の南側拡幅工事がなされると、白樺通りの車輛交通の流れを阻害する要因が除去されることになるので、右流れの渋滞によつてより多く生ずる種類の排気ガスは却つて減少するものと考えられ、少なくとも右区間の南側拡幅工事がなされることに因つて白樺学園に及ぶ排気ガスの悪影響が全体として増加することになるものと認むべき疎明資料はない。

(4) 白樺通りの前記区間の南側拡幅工事がなされることによつて白樺学園に通学する生徒が交通事故に遭う危険性が高くなるものと認めるべき疎明資料もない。

(5) ほかに、本件係争地帯が白樺通りの拡幅工事によつて道路となつてしまうことに因つて白樺学園の学園としての教育環境が破壊されてしまうものと認められような疎明資料はない。

3(1) 本件換地処分によつて被抗告人らが失うことになる本件係争地帯は、白樺通りに面した東西約二六〇メートル、南北約7.7メートルの面積約二〇〇二平方メートルの部分であることは前認定のとおりであり、これは白樺学園旧校地総面積約五万七五八三平方メートルの約三パーセントに相当する。しかし本件換地処分によつて被抗告人らが失うことになる本件係争地帯は、旧白樺通りから本校舎玄関に至る本校舎前庭の入口付近をなすその中央部分のほかは、白樺等の樹木が生えていたところであつて(本件従前の土地の仮換地指定のあつた後、本件係争地帯にあつた白樺等が移植されて、本件係争地帯には現在は若干の雑木や灌木しかないことは前判示のとおりである。)、学園としての景観を整えるために役立つていたところではあるが、本校舎その他白樺学園としての重要な建物や運動場のように学園として必須の教育施設の用地となつていたところではなく、また本件係争地帯が旧校地から失われても、そのこと自体に因つて白樺学園の教育施設が分断されるとかその教育的機能が低下せざるを得ないとかの支障が生ずるものとは認められず、従つてそれに因つて学園としての教育環境が大きく害されることになるものとは認め難い。従つて被抗告人らが本件係争地帯を失うことに因つて被ることあるべき損害は、本件係争地帯が学校の校地一部であるという特殊性を考慮に入れても、なお、それは金銭賠償を受けることによつて受忍すべき性質のものということができる。

被抗告人らが抗告人のした旧校地についての仮換地指定処分につき無効確認の訴を起こしながら、あくまでこれを追行することをせずに後日右訴を取下げてしまつたこと、また前記仮指定処分に基づく抗告人の強制処分につき抗告人との間に裁判上の和解ないし裁判外の合意をなし、内心不服ながらも、抗告人が本件係争地帯に在つた校門を移転したり、樹木を移植するのを平和裡に受忍したこと、その後抗告人に対して本件係争地帯に白樺通りの拡幅工事がなされることに因る白樺学園運営上の支障を訴えて、自動車騒音対策や換地処分によつて失うべき旧校地の代替地の提供や補償の方法やその額についての要求を述べて抗告人と折衝してきたことは前認定のとおりであるが、被抗告人白樺学園の執つたこれら一連の所為は、旧校地の一部であつた本件係争地帯を失うことに因つて被抗告人白樺学園の被ることあるべき損害が金銭賠償をもつて受忍すべきものと差支えないことを裏付けるものと言つてもよいであろう。

(2) 前に述べたとおり、白樺学園の旧校地の換地の総面積は、約四万八二九五平方メートルであり、白樺学園の生徒収容定員は九〇〇名(昭和五〇年五月現在における生徒数は四八六名)であり、従つて右生徒収容定員を前提とする生徒一人当たり校地面積は、53.66平方メートル(右の生徒現在数を前提とすると生徒一人当たり校地面積は99.37平方メートル)となる。右の生徒一人当り校地面積は、昭和二三年文部省令第一号高等学校設置基準第一七条、第二号表で定められている普通料・商業科高等学校の生徒一人当たり校地面積七〇平方メートル(これにつき、被抗告人らは、教育行政当局は、右第二号表所定の生徒一人当たり校地面積七〇平方メートルと生徒一人当たり運動場面三〇平方メートルとの合計面積一〇〇平方メートルをもつて生徒一人当たり校地面積とする見解を執つているとし、右見解を正当なものと主張するものの如くであるが、右見解は右第二号表の解釈としては採り難い。)を下回ることになり(右の生徒現在数を前提とすればそのようにならないことは明らかである。)、従つて本件換地処分も右の生徒一人当たり校地面積の減少に何ほどかは荷担していることになる。しかしながら右高等学校設置基準における生徒一人当たり校地面積は、高等学校を設置する場合の校地面積の基準であつて、それは必ずしも絶対的なものではなく、高等学校設置後において生徒一人当たり校地面積を右基準を下回ることになるように減少させることが絶対に許さないという趣旨を含むものでもなければ、また生徒一人当たり校地面積が減少して右基準を下回ることになればなんらかの行政上の処置を招くことになるというような性質のものでもない。従つて本件換地処分が、自樺学園の生徒一人当たり校地面積が右高等学校設置基準所定のそれを下回ることになるのに何ほどか荷担するとの一事によつて、直ちに前段で示した判断が妨げられるものではない。因みに疎明資料(乙第一三号証)によれば、帯広市内の市立又は私立の普通科高等学校の中にはその生徒一人当たり校地面積が、白樺学園の旧校地の換地を校地面積と前提とし、且つ前示の収容定員を前提とした場合の生徒一人当たり校地面積よりも少ないものが少なくないことが認められるが、それら高等学校において生徒一人当たり校地面積が少ないために教育上なんらかの支障を生じていることを窺わせるような疎明資料はない。

(3) 被抗告人は、本件換地処分に因り、本件係争地帯が旧校地から削られるため、将来被抗告人白樺学園が校舎を新築することや、旧校地を校地として大学を含めた一大学園をつくることができなくなるかのように主張するが、現生徒数が収容定員を大きく下回つている白樺学園として将来、現存の校舎のほかに新たな別の校舎を新築する必要が生ずるか否か疑わしいのみならず仮にそのような新校舎建築の必要が生じたとしても、本件係争地帯が旧校舎から削られたためにその建築が不可能になるものとは思われないし、大学の設置について言えば、仮に本件換地処が行われなかつたとして、被抗告人白樺学園が旧校地を校地として新たに大学を設置することについて監督庁の認可を受けることができたであろうと認められるような疎明資料はないから、本件換地処分に因り本件係争地帯が旧校地から削られることに因つて、被抗告人白樺学園が、旧校地を校地として大学を設置することないし大学を含めた一大学園をつくることができなくなる旨の被抗告人らの右主張はこれを認め難い。

(4) ほかに本件換地処分ないし白樺学園旧校地の換地処分がなされたことに因つて被抗告人白樺学園の将来における教育計画の構想が実現を阻まれ、破壊されてしまうものと認められるような疎明資料はない。

4 北海道は、若し帯広市が本案訴訟で敗訴しその判決が確定したならば、白樺通りに沿つた白樺学園前の前示東西約二六〇メートル南北7.7メートルの土地即ち本件係争地帯を道道芽室東四丁目帯広線の道路拡幅用地としてこれを土地収用法によつて収用することを考えていることは前判示のとおりであるが、前認定の事実その他本件に顕われた疎明資料によれば、本案訴訟で若し帯広市敗訴の判決があつてそれが確定したときは、北海道が右思惑どおりに右土地を土地収用法によつて収用すべく試み、それによつて本件係争地帯が北海道に収用されてしまう蓋然性は相当高度に存するものと考えられる。若しそのような事態に立ち至れば被抗告人らとしては、金銭による補償をもつて満足するほかないことになることは言うまでもない。

5 以上説示した本件諸般の事情を総合勘案すると、本件換地処分によつて被抗告人らが本件係争地帯を失い、ここに白樺通りの拡幅が行われることに因つて被抗告人らの被る虞れのある損害は、社会通念上、軽微なものないしは原状回復に代えて金銭賠償をもつて受忍すべきものとみるのが相当である。

(四)  右のとおりとすると、(一)で説示したところにより被抗告人らは、本件換地処分によつて回復することの困難な損害を被るに至るものとはなし難く、従つて本件換地処分に因つて回復の困難な損害を被る虞れがあることを前提として右損害を避けるため本件換地処分の効力を停止すべき緊急の必要があるとする被抗告人らの前記主張は、爾余の判断をなすまでもなく失当といわざるを得ない。

三よつて被抗告人らの本件各執行停止の申立は、その余の点につき判断するまでもなく失当として却下すべきであり、従つてこれと判断を異にする原決定は失当であるから、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第四一四条、第三八六条に則つて原決定を取消したうえ、被抗告人らの本件各執行停止の申立を却下することとし、手続費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条第一項但し書を適用して、主文のとおり決定する。

(宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)

別紙一、二<省略>

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